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老眼初心者による本や映画の話

あまり読まない本とあまり見ない映画の話

映画『この世界の片隅に』

こうの史代の原作も読んでいますが、あえて読み返さず、映画を観ました。1週間くらい前の話です。

広島市の江波(えば)で育ち、呉市に嫁いだ女性すずの物語です。絵が得意で夢見がちで、現実と夢の境が曖昧な少女でした。

原作コミックの良さをそのまま残しつつ、街並みや動植物を丁寧に描くアニメでした。戦時下の風俗が丹念に再現された、大袈裟にいえぱ民俗学的な要素もあります。広島県出身者から見ると、たいてい映画やテレビの広島弁はむちゃくちゃなんですが、この映画の声優陣に関してはほとんど違和感がなかった。そのことからも、いかに丁寧につくられたかがわかります。
呉は軍港でありました。いまでも造船の街です。
そんな町に嫁いだ主人公すずは、おおむね好人物だけがいるコミュニティで、のんびり見える日々の生活を送ります。夢見がちで明るい性格の彼女を通してみると、戦争という不条理までふくめての、日常なのです。ところが、そこに予期せぬ不条理が襲いかかり、彼女にヒリヒリとした現実を突きつけるのです。
主人公の声を演じたのん(能年玲奈)は作品をよく理解していました。素人くさささえ魅力になっていて、彼女の映画といってもいいかもしれません。彼女の独立問題によりテレビで映画のプロモーションができなかったという噂も聞きましたが、いまどき映画なんて口コミでヒットするんでしょうから問題ありません。私は基本的にテレビを観ませんしね(じつは『あまちゃん』も知らないのです)。
最近、第二次大戦の知識がない若い子がいると聞きます。私は8月6日がなんの日か知らない若者の会話を聞いたことがあります。そういう人が見たら呉を攻撃するのがどこの国なのかわからないくらい政治的な背景は省略されます。もしも「銃後の暮らしも案外たのしかったんだな」とか「反戦のメッセージがなかったな」なんて思うなら、決定的に鑑賞力がないのでしょうが。
前述のとおり、ぼんやりした性格の主人公のフィルターを通すことで、軍国主義的風潮も捨象されています。だからこそなんでもない日常を破壊する戦争の不条理さが際立つともいえます。

原作を読んでストーリーは知っていましたから、いきなり映画だけ観た人よりショックは少ないはずです。それでも気持ちが重くなり、1日ぼけーっとしてしまい、とりあえず映画館から帰って1時間ほど寝ました。^^
私が小学生のときに死んだ母方の祖父は、戦時中、呉の造船所で働いていました。晩年は長男とともに自宅で漁船を作っていました。あの映画の世界にいたんだろうか、なんて考えています。

         ☆

原爆をあつかった映画は『はだしのゲン』も『黒い雨』ももっと衝撃的でした。『この世界の片隅に』は、その点、かなりマイルドです。
でも、『この世界の片隅に』も戦時下の一面なのです。原爆投下から70年以上経って、やっとこういう切り口で原爆を語れるようになったとも言えますし、そのためヒットしているとも言えます。今村昌平『黒い雨』の公開初日、私は当時の習慣で、最前列の真ん中に座りましたが、客は私だけでした。怖かった。
個人的には、遊廓跡に興味があり、中国地方最大規模の呉の遊廓にスポットを当てたことも評価します。あれも遊廓の一面でしょうけど。