老眼初心者による本や映画の話

あまり読まない本とあまり見ない映画の話

本『炭素文明論』

 ひさびさに更新してみます。
 
 佐藤健太郎『炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす』は、サイエンスライターの著者が《化学に対する関心の低さを、少しでも改善したい》と願って書かれた本だそうです。地表における炭素の存在比は、質量にしてわずか〇・〇八パーセントに過ぎない一方で、炭素をふくむ天然もしくは人工の化合物は全体の八割を占めるのだそうです。もちろん人体にも炭素はおおく含まれます。
 本書で扱われる炭素化合物は、デンプン、砂糖、グルタミン酸などの食品、ニコチン、カフェイン、エタノールなどの嗜好品、ニトロや石炭、石油などのエネルギーです。たしかにそれらは人間の人口増加を支え、文明を作ってきました。世界全体を巻き込んだ貿易や争奪戦が始まり、戦争さえ引き起こし、格差を生み出しています。
 とくに興味深かったのは、未来のエネルギーのこと。
 福島の原発事故により、再生可能エネルギーに注目が集まっているけれど、《残念ながら、どうひいき目に見ても、今のところこれらは原子力の穴を埋めるエネルギー源にはなりえない。風力や太陽エネルギー源は、あまりにエネルギー密度が低すぎるためだ》そうです。
 原子力に頼らないためには石油やシェールガスなどに依存する必要があります。しかし《資源ナショナリズムの問題》があり、国家間のいざこざが起きやすい。
 そんななか注目されているのが「人工光合成」なのだそうです。空気中の二酸化炭素を炭素に還元する技術を獲得することが21世紀のエネルギー確保の課題であり、それが地球温暖化対策にもなるというのです。
 私は「化け学」が不人気だから専攻しなかったのではなく、科学全般不得意だからやらなかったクチですが、「人工光合成」は多いに気になります。
      ★
 蛇足。
 糖質制限派の私は、この部分が気になりました。
《人類も、おそらく誕生当初から穀物を口にし、命をつないできた。ハーバード大の研究チームによれば、一九〇年前に生きていたホモ・エレクトゥスが、初めて火を使った加熱調理を行なったと見られる。デンプンは、水を加えて加熱することにより、グルコースの間に水分子が入り込んで膨張する(糊化)。炊いた米、ふかした芋はこの状態だ。こうなると、デンプンの腐りがゆるんでいるので消化分解を受けやすくなる(略)/これと同じ時期、人類の脳の容積は急拡大している。火を使った調理によって十分な炭水化物を摂れるようになったことで、脳の発達が促されたと見られている。その代わり、人類は糊化していないデンプンを消化する能力を失ってしまった。多くのサルはドングリなどを生のまま食べて消化するが、人間だと腹をこわしてしまう。人間は体内で行うべき消化の機能を、火に「外部委託」してしまうことで、カロリーと時間、そして高い知能を手に入れたと見ることもできよう》(39ページ、太字は引用者)
 はて、もともとの人間は、火を使う前に生の穀物や木の実を食べ、消化することができたのでしょうか?
 これは今後の課題といたします。

炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)

炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)