老眼初心者による本や映画の話

あまり読まない本とあまり見ない映画の話

本『明治維新という過ち』

 安倍晋三という男は自分を保守と自称するのですが、ハテ、私の知っている保守ではないのですよ。保守という言葉をご存じなければ、エドマンド・バーグで検索してみてくださいませ。
 安倍先生は、いまある社会を明治に戻せなんて不思議なことを考えているらしい。戦後こつこつ積み上げてきたものを一挙に毀そうとします。これは革新ではありませんか。生産性革命、人づくり革命など、やたらと「革命」と言うのであります(安倍先生の発音は「しぇえしゃんせい、かくめぃ」「ひとちゅくり、かくめぃ」。ちなみに北朝鮮は「ちたちょうせん」)が、とても保守派の言葉とは思えません。エドマンド・バーグは、フランス革命を批判して保守という概念を説明したのですから。
 ふと思ったのです。
 日本は明治におかしくなったのではないか。幕末にテロを繰り返し、ついにクーデターで幕府を転覆させた薩長がつくりあげた新政府は、日本の伝統をことごとく破壊(たとえば廃仏毀釈)し、自分たちに都合良く国民を教化し、戦争を繰り返しました。明治維新といわれるあのとき日本が捩じ曲がり、いまに至っているのではないか……。私はあんまり幕末って好きじゃなかった。喧嘩上等、太く短く、みたいな狼藉者が跋扈し暗殺を繰り返した殺伐とした時代です。しかし、現代日本を識るためには避けて通れそうにない。
 そう思いつき、薩長史観とか、長州史観とかで検索すると、いくつか面白そうな本がヒットしました。そのひとつが、原田伊織『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』(講談社文庫)です。もうすこし落ち着いたカバーデザインが望ましい。
 著者は、いまの教科書は官軍による偏った正史だと断言します。私は小学5年生のときに手塚治虫『火の鳥 ヤマト編』で、「歴史は勝者が都合良く書いたものだ」という衝撃の事実を知りますが、当時読んでいた社会の教科書まで疑うことをしなかった。
 さらに原田氏は、薩長が手を組んで、どんなふうにテロを起こしていったか、戊辰戦争で東北にどんな非道を働いたか、攘夷を唱えていたくせに開国し、天皇を利用して新政府を開いたか、を解説していきます。
 著者はあとがきで「今、私たちは長州・薩摩政権の書いた歴史を物差しとして時間軸を引いている。そもそもこの物差しが狂っていることに、いい加減に気づくべきであろう」と書いています。まったく同感です。
 
 以下、蛇足。
 明治以降、賊軍扱いされた東北は沖縄と並んで差別されてきた。インフラがあとまわしにされ、減反政策により余った労働力を高度経済成長期の大都市に集団就職させられ、原発を押しつけられ……。核燃料の再処理施設がある六ヶ所村は、むかし会津が改封された斗南藩のあった場所です。
 本書によれば、昭和61年に、長州の萩市が会津若松市に友好都市になりましょうと申し入れたところ、「まだ120年しか経ってないので」ときっぱり拒絶したそうです。震災を機に和解のムードは生まれているらしいけど、その間なんと150年。
 戦後から今日まではその半分か。韓国が「日本を許す」とは言わんよ、そりゃ。
 日本を「改革」しようとするアメリカ隷属の長州政権と訣別し、本当の意味での保守政権を待望します。福島や沖縄にいい政治家はおらんかね。